人権の専門家の立場から - 寺中 誠 さん


- 寺中さんの考える2050年人権シナリオについてお伺いできますでしょうか?
2030~2050年には、現在、人権課題とされている課題はなくなっていると考えます。現状、人権課題として解決されなければならないと考えられている理由は、まだ有効な解決方法がない、一朝一夕には解決しないという「人権課題」の特徴的な捉えられ方が前提にあるためです。
- 何が原因で人権課題が起こるのでしょうか?
人権課題は演繹(えんえき)的に「これが人権課題だ」と説明していくよりは、機能的に「解決しなければならない課題があるが、通常のルールを踏襲したのでは解決できない」という場面ではじめて、人権課題と捉えられるのではないかと考えます。
例えば、「裁判にはもっていけない」「裁判ではなかなか勝てない」そのような状況下にある課題が結果として人権課題に発展していくといったことです。
また、人権課題は解決しなければいけない側が意図的につくりだしてしまう場合もあります。状況にもよりますが、企業側が問題を起こしている場合では、次のような点が原因で解決可能な課題が人権課題に転換されてしまうことがあります。
- 対応するのが遅れた
- 意図的に問題を避けた
- 慎重に問題を消していった
早い段階で解決のマネジメントをしておかないと大変なことになってしまう場合があります。
そのため、地域コミュニティ、ステークホルダーからの批判にどう応えるかがポイントとなります。時代を経た問題が言及されることについてきちんと対応していく難しさはあるものの、そのための窓口を用意しているのと、そうでないのでは全く違います。また、ステークホルダーに参加の機会を与えるなどについても同じことが言えます。

- GRIガイドライン第4版の人権側面の指標をどのように見ていますか
2030~2050年のプライオリティは、国内外問わずバリューチェーンやサプライチェーン、地域コミュニティの安定性が重要になってくると考えています。
GRIガイドライン第4版では従業員の人権に軸足が置かれており、児童労働や先住民族の課題も従業員の権利の延長線上に位置づけられています。それにプラスして社会(SO)のカテゴリの中に、地域コミュニティという側面が別途、存在する構造です。将来的な人権の主流は「地域コミュニティ」であり、従業員の人権は当然のものとなってマイナーな話になっていくのが、あるべき姿ではないでしょうか。
-人権の真意について、未来像と合わせてコンパクトにお答えいただき、ありがとうございました。A.I.(人工知能)の権利など、ここでは紹介しきれなかったお話もあります。評議員としてSus-FJに参加いただいている寺中さんには今後もいろいろとご教示いただきたいと思っています。ありがとうございました。