長期的な視野(2030~2050年)を持ち、サステナビリティを追求する

シナリオプランニングの実践プロセスについて

1.はじめに

2015年9月の国連総会でのSDGsの採択、12月のパリ協定締結など、人類史上「成長」や「進歩」が大前提だったこれまでの世界で「気温上昇を2℃未満に」のように「キャップ」をする考えに合意がなされました。以降、これらを受けてどのような長期ビジョンを掲げるかが、企業の重要な仕事になっています。

早くからこうした課題に取り組んできたサステナビリティ日本フォーラムでは、2014年に有志で、2050年がどんな姿になっているか、複数シナリオを考える研究会を実施しました。
研究会で描いたオレンジ/ブルーシナリオは、2050年のビジョン(目標)を立てる上で、たたき台となる考え方を提供することをねらいとしました。
しかしながら前述しましたように2015年に人類文明史にとって大きなパラダイムシフトが起きました。というよりは、人類が「意図して」起こしたものです。
(SDGs; TRANSFORMING OUR WORLD)
従って、シナリオプランニングも大きく変容させる必要があるため、我々のオレンジ/ブルーシナリオも見直す必要がありますが、実施した「プロセス」はそれなりに実践例として参考になると考え、公表することとしました。
これは下記2に記すTCFDのシナリオ分析を考える際にも役立つと考える次第です。
実施した研究会について以下、3の実践プロセス等にまとめましたので、どのようなプロセスで研究会を実施したのか参考までにご一読ください。

2.TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の勧告

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は2017年6月に勧告を発行、7月のG20に提出採択されました。それには技術的補足「気候関連のリスクと機会の開示におけるシナリオ分析の使用」もありました。
TCFDのシナリオ分析は、1970年代初めよりシナリオプランニングで経験を重ねてきたシェル社より多くの知恵を借りています。気候関連事項に特化して、今後、リスクと機会がどのように展開されるか、潜在的な事業上の意味合いを考慮する上でシナリオ分析は必要であるとしています。TCFDでのシナリオ分析は、複数のシナリオの中で自社の戦略等を考え抜くことを意味しています。

3.当フォーラムのシナリオプランニングの実践プロセス等

<全体プロセス>
第1回~第10回の研究会と合宿を行い、企業の環境担当者を含めて12名程、チームに分かれて議論を重ねました。研究会の成果(シナリオ)はあくまでも参考事例です。また、オレンジ/ブルーシナリオの策定とは別に、CSR分野の有識者に2050年のあるべき姿について伺いました。

スケジュール 内容
第1回 研究会(キックオフ)開催
2014年4月18日
方針の確定
第2回 研究会開催 4月28日
専門家意見徴収:駒澤大学 李 妍焱氏
どのようなデータを集めるか、国内、アジア、中国、全世界でチーム分け
視察 上海 5月17日~20日 国営企業や外資企業の環境取組の視察、現地NGOとの対話
第3回 研究会 開催 6月2日 人口動態や気候変動の影響を中心に収集したデータを共有
第4回~第10回 研究会 開催 一ヶ月に1回の頻度で研究会を開催。必要に応じて専門家の意見徴収
合宿 2015年1月31日、2月1日
シナリオ仮説 完成 3月

<研究会のプロセスを経て分かった点>

  • 人口動態や気候変動の影響など、データが在るものから取り組んだ。ただ、シナリオとして考えるべき事象はボディーブローのようにゆるやかに変化し、影響するものではなく、将来展開が読みづらく、事業に大きな影響を及ぼす、政策、法律、技術、市場の変化を踏まえるべきだった。また、データの確からしさの証明も難しい。さらに、
  • 地域別にチーム分けをし(中国は、隣国であり大国であるため、一国としてチームを設けた)、取組んだがシナリオに必要な日本以外の情報を収集するのに苦労した。
  • 2軸でシナリオを考える方法を試みたが、できなかった。
    軸をひとつ決め、決めた軸の要素が進むとAという社会、進まないとBという社会が描ける、といった決め方で、チームごとに社会像を描く方法。仮に2050年のデータが定量化できるものであれば、表される点は最悪と最良の2点になり、そこに到達するためのプロセスが分かる。定量化が仮に意味のないものであれば、IPCCの予測のように幅を持たせた表現をするといったことで、軸を決めるときに検討するのが良いのではないか、という意見も出た。このように行った場合には、例えば、富の再配分がうまく機能する、しないといったことも軸になりうる。
  • 思いを同じくする人が募った研究会だから簡単だと思われていたが、多様な考えが議論を拡散させた。メンバーがより多様になると、こうした研究会の実施はさらに難しくなるかもしれないが、多様性は必須。
  • また、確実なシナリオを描くためには、シェル社のように莫大な資金の投下が必要で、実際に将来の展開を定量化することは難しい。思いつきのユートピアとディストピアの列挙になってしまうこともあり得る。

<オレンジ/ブルーシナリオ 3つのポイント>

  • 我々の実験では、さまざまな資源制約、環境制約を前提に2050年の明るい世界(オレンジ)と暗い世界(ブルー)の二つの異なる未来像を描いた。複数シナリオは「明」と「暗」である必然性はない。
  • その途中のどちらの方向であれ推進要因と阻害要因を明らかにすることが、今回のシナリオ策定の目的。
  • オレンジシナリオが企業の「目指す方向(Direction)」にするのが良いかもしれないが、楽観的過ぎるかもしれない。ありたい姿(Aspirations)をオレンジとブルーの間のどこにするのかは企業の戦略的思考の中で決定する。推進要因・阻害要因は、ありたい姿からバックキャストして、ロードマップとしてのフォアキャストを策定する中での短・中・長期の戦略を描くときの検討・考慮要素になる。

【前提条件に含まれない事項】
頻度は低いが影響が大きい下記のワイルドカードについて、オレンジ/ブルーシナリオでは、考慮しないこととした。

  • 太陽活動の異変/地球の地軸の移動/小惑星の衝突/氷河の溶融/磁気嵐/新種のバクテリア/世界的な伝染

オレンジシナリオとブルーシナリオ
PDFファイルでご覧いただけます(844KB)

<参考事例>

<類似事例>

  • 未来教育会議(2016年6月)『2030年の社会・企業の4つの未来シナリオ』概要
  • 国立環境研究所(2015年12月)将来シナリオと持続可能社会の構築に関する研究
  • WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)(2010年2月)Vision 2050: The new agenda for business
  • 環境文明21(2011年10月)NPOと企業・学識者の連携による「環境文明社会」のロードマップ作り(イラスト付き概要版)

※上記には、ありたい姿からバックキャストする一種のシングルシナリオで物事を考えるものも在る。シナリオプランニングは、複数のシナリオから戦略を検討するものである。

<有識者インタビュー:ステークホルダーに聞く重要側面から見た2050年>

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水口剛さんに2050年の未来について「社会的責任投資」の観点からお話を伺いました。
詳しくはこちら
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冨田秀実さんに2050年の未来について「CSR」の観点からお話を伺いました。
詳しくはこちら
人権の立場から 東京経済大学 客員教授 寺中 誠 さん
東京経済大学 客員教授の寺中誠さんに2050年の未来について「人権」の観点からお話を伺いました。
詳しくはこちら

※すべての有識者インタビューは、2016年3月に行ったものですので予めご了承ください。

4.おわりに

サステナビリティ日本フォーラムでは、長期的視点を持って未来を考え、社会のあるべき姿の実現に向けた活動を2002年から行っています。その一つに、長期ビジョン(目標)の研究があります。これまで開催した約10の研究会は、「2020年を考える会」から始まり、「2030年のライフ&ワークスタイル研究会」と多岐にわたり、目標年限やテーマを絞ってビジョンをつくり、バックキャストを行ってきました。TCFDの複数シナリオの方法との違いは、世の中のこうなるであろう、不確実性も加味した中で複数のシナリオを描き、自社のありたい姿を考え、戦略を練るという点で、今後行う研究会ではこの考えも踏まえて探究すべきと考えます。

また、長期的視点を広めるための手段として、持続可能な経営を望む企業がサステナビリティを実務慣行に取り入れるためのガイドラインであるGRIガイドラインの普及を行ってきました(2016年には、手引きであるガイドラインからスタンダード[規準]に格上げされています)。GRIスタンダードを読むと「長期的」という文言は、必ずしも他の統合報告のフレームワークなどのように頻出するわけではありません。しかしながら、企業とステークホルダーにとって重要な要素を特定し、パフォーマンス測定を定点観測しながら取り組み進めることは、おのずと長期的視点が必要となってきます。(ex.ダイバーシティの推進など)このようなことから研究会を開催し、今後もこうした場を設けていきたいと考えています。

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